2月15日になると、街やお店から「バレンタインデー」の文字は消え、代わりに「ホワイトデー」と書かれた装飾ばかりになっていた。・・・すごいよね。
年間のチョコレートの売り上げは、バレンタインデーで決まると言っても過言じゃないぐらい、日本ではかなり特別な行事の1つになっている。きっと、女の子はそういうのに弱いんだ。そういうものに夢見たり、そういうものに頼ったりしたいんだと思う。
そういう私も、今年は特別な日だった。今までは、友達と交換したり、家族でチョコレートを食べたりって感じだったんだけど、去年の春から私にも彼氏ができて、初めて2人で迎えたバレンタインデーだった。
ただ・・・。その彼氏がそういうイベントに興味の無さそうなタイプで・・・。
私の彼氏は、日吉若っていう、もう頭も良いし、スポーツもできるし、真面目だし、・・・時には優しいし。いや、本当は優しいってわかってるんだけど。とにかく、私には勿体無いぐらいの彼氏だ。
1年の時に同じクラスになって、たまたま席も近くて、何度か喋ったり、日吉の部活を見に行ったり、大会まで見に行くようになったりして・・・。
だけど、2年で別のクラスになったら、もう話せる機会もそう無いだろうと思って、クラス替えをする前に告白したら、意外なことにOKを貰えた。本当、あれは驚いた。正直、無理だろうと思ってたし。伝えたいと思ってただけだったから、本当に嬉しかったなぁ・・・。
そんなわけで、今年は別のクラスなんだけど、毎日一緒に帰ったりできるし、すごく幸せ!それに、去年から同じクラスで仲のいいと奇跡的に同じクラスっていうだけでも有り難いし!!
でも、を見ると、余計に悩む・・・。
の彼氏は、日吉と同じ部の鳳くん。去年、鳳くんは同じクラスじゃなかったから、私がをテニス部見学に連れて行ったのがきっかけだ。が「鳳くんにアンタの恋、応援してもらおうじゃない!」とか言って、鳳くんも「任せといて!」ってなって・・・。先に、この2人が付き合うことになった。本当、私に感謝してよ!・・・って言うのは、もちろん冗談で。その後も、この2人には相談を聞いてもらったり、いろいろと協力してもらったりしたから、おあいこだ。
ここからもわかるように、鳳くんは日吉と違って、女心がわかっていると言うか、何と言うか・・・。とりあえず、「バレンタインデーに貰ったら、ちゃんとホワイトデーにお返ししなくちゃ。いや、貰ってなくても、俺が渡したいんだ!」ぐらいのことは言ってくれそうなイメージ。それに比べて、日吉は絶対、「ホワイトデー・・・?あぁ、そうだったか。で、それが何だ?」ぐらいのイメージ・・・。
さすがに、礼儀は私以上にある人だから、「一応、返しておく。」ぐらいは言ってくれるかもしれないけど・・・。別にお返しが欲しいわけじゃないって言うか・・・。やっぱり、ホワイトデーも夢見たいもん!でも、日吉がホワイトデーを知らないって言ってても、おかしくない。
「はぁ・・・。」
私は、授業中にも拘らず、そんなことで悩み、ため息を吐いた。
すると、隣の席のから、すっと紙を渡された。そこには、の字が書かれていた。
『最近、何に悩んでんの?なんか、元気無い気がするんだけど』
私は、先生の目を盗んで、返事を書き、に渡した。
『どうでもいいこと考えてただけ』
すると、しばらくして、またから返事が来た。
『どうでもいいかは聞いてからじゃないと、わからないでしょ?それに、どうでもいいことなら、話してみるだけでも、少しは楽になるかもよ?別にが話したくないなら、それでいいけどね』
こんな素敵な友達にも恵まれて、私はすごく嬉しくなった。
『じゃ、お昼に聞いてもらってもいい?』
今度はすぐに返事をくれた。
『もちろん!』
私はそれを読んでから、の方を見ると、はニッコリと微笑んでくれた。私も、「ありがとう。あとで、よろしく」って意味も込めて、微笑み返した。
「それで、何かあったの?」
お昼を食べ始めると、がそう聞いてくれた。私は、早速さっき考えていた、「日吉はホワイトデーにお返しをくれるのか?」ということを話した。
「――でも、それは誰にだって言えることでしょ?お返しなんて貰えるかわからない。貰えたとしても、何を貰えるかはその日までわからない。それが楽しみでもあるんじゃない?」
「それはそうなんだけど・・・。日吉の場合、本当に知らなかったら、どうしようと思って・・・。」
「たしかにね〜・・・。」
「でしょ?鳳くんなんて、絶対にそういうこと覚えてそうじゃない?」
「そうね〜・・・。ただ、長太郎の場合、覚えててるからこそ、私以外の女の子にもお返しをしそう。」
「そう?」
「いやいや・・・。意外と抜けてんのよ、あの子。」
「そうなの?」
「そうよ。意外って言うか、予想通りって言うか・・・。」
そう言って、は苦笑いをした。・・・やっぱり、それなりにも気にしてるってことか。
「・・・まぁ、お互い当日を楽しみにしておくしかないってことか。」
「そういうことね。」
やっぱり、に話して正解だった。解決したわけじゃないけど、気持ちはかなり軽くなったよ!
「ありがとう、。」
「どういたしまして。・・・別に何もしてないけどね。」
が悪戯っ子のように、そう言ってニヤッと笑ってみせたから、私も思わず笑った。
放課後、テニス部の活動を見終わって、私たちはいつものように校門で彼らを待った。
部長になった日吉は、一応、部室に忘れ物などが無いかを確認してから、最後に帰るらしく、いつも先にと鳳くんが帰る。まぁ、部室もセキュリティがすごいから、万一忘れ物があっても問題無いみたいだけど。
でも、私も特に文句は無いし、今日もと鳳くんにはバイバイと言って別れてから、最後に帰る日吉部長を待っていた。
「・・・いつも悪いな。」
「いいよ。お疲れ様。」
「あぁ。」
それに、ほら。ちゃんと、日吉は私を心配してくれている。それだけで充分だ。
「部活見てるのも暇じゃないか?」
「大丈夫だよ。ずっとと喋ってるし!」
「そうか・・・。最近は暖かくなってきてるが、無理はするなよ?」
「うん。たまには、教室で宿題してるときもあるから。」
「なら、いいんだが。」
・・・やっぱり、日吉は優しいよね。
「別に点検なんてしなくても大丈夫だとは思うんだが、一応部長としての責任もあるし・・・。」
「うん。わかってるよ。」
それにしても、今日はやけに優しいなぁ・・・。何かあったのかなぁー?・・・って、これは失礼だね。
「・・・悪いな。」
「全然悪くないの!」
「そうか。」
そう言いながら、日吉は少し笑った。・・・と言うか、苦笑い?やっぱり、少し変だよ?
「どうしたの、日吉?何かあった?」
「いや・・・何も無いが?」
「そう?それならいいけど・・・。」
「何か違うか・・・?」
気付いてないのかなぁ・・・?それとも、本当に私の思い違いかもしれない。
「ううん。日吉がそう言うなら、気のせいだね!」
「・・・心配をかけさせて悪い。」
「私が勝手にそう思っただけだから!日吉は気にしなくていいって!」
やっぱり、少しおかしいよ・・・。でも、それを気にすると、日吉はまた「心配かけさせた」って思っちゃうし・・・。
私も、「もう全然気にしてないよ!」って感じで話を変えた。
「それより。本当、最近は暖かくなってきたよねー。」
「そうだな・・・。」
「私たちも、もう3年生だよ?」
「自分のことにも、周りのことにも、責任を問われる学年だな。」
「たしかに。特に日吉は部長だし、部活では大変になるだろうね。」
「・・・俺たちにとっては、最後の大会でもあるしな。」
「最後、か〜・・・。やっぱり、寂しい?」
「後悔するような試合はしたくないとは思う。だが、テニスを止めるわけじゃないから、寂しくはない。」
「なるほど・・・。そうだよね。引退した後も、部活に行くんだろうし。」
「あぁ。・・・でも、そんなに頻繁に行くことはないだろうから、早い時間でもと帰ることができるな。」
「・・・本当?」
「今よりかは、そうなるだろう。」
・・・そうだとしても。やっぱり、こんなこと言うのって、何だか日吉らしくない。
「ん〜・・・。引退しても頻繁に部活に行ってる方が日吉っぽいよ?」
「あまり頻繁に行けば、後輩に嫌がられるだろ。」
「そんなことないでしょ?」
「いや。・・・実際、俺は頻繁に来られると嫌だからな。」
・・・あ。やっぱり、いつもの日吉だ。
日吉はもちろん優しいところもあるけど、ちょっとぐらい冷たい発言をしていた方が日吉らしいよ。
なんて、失礼なことを考えて、思わず自分で笑ってしまった。
「・・・何か可笑しいことでも言ったか?」
「ううん。日吉らしいな、って思ったから。」
「どういう意味だ・・・。」
「ごめん、ごめん。」
こういう会話が日吉らしいと思うんだ。
そう思いながら、まだ私がクスクスと笑っていると、日吉が私の頭を軽く叩いた。
「笑いすぎだ。」
「ごめんってば。」
本当に軽い力で叩かれたから、私には頭を撫でられているように感じた。それが心地良くて、また私は嬉しそうに笑ってしまった。日吉には、それが反省していないように見えたらしく、まだ私の頭の上に置いていた手で、今度は髪をくしゃくしゃにされた。
「わ〜!乱れるって・・・!」
私が慌てると、日吉は満足したみたいで、ニヤリと笑った。
「が笑うからだ。」
もう・・・。
でも、よかった。日吉がいつも通りで。
「いいでしょ?笑ったって!」
「反省してないようだな・・・。」
そう言って、日吉はまた私の頭に手を伸ばした。今度はくしゃくしゃにされまいと、私はその手を掴んで止めた。
「ストップ、ストップ!」
「反省したか・・・?」
「しました、しました!」
「よし。」
そんなやり取りをしているときも、私はまだ用心して、日吉の手を掴んだままだった。
「・・・?手・・・。」
「離すと、絶対くしゃくしゃにされるもん。」
「・・・ってことは、反省してなかったんだな?」
「そういう意味じゃなくて!」
私がまた焦っていると、日吉が嬉しそうに笑った。
「まぁ、いい。掴んでてもいいから、とりあえず、手を下ろさせろ。」
「・・・わかった。」
って、あれ?この状況って・・・。手を繋いでることになりません??
「が離したくないのなら、帰るまでそうしてればいい。」
「・・・・・・うん!」
日吉もわかって言ってくれてるのだと思う。あんまり、こういうことってしないから、私も嬉しくなって、ご機嫌で頷いてしまった。
本当に家に着くまで、日吉は手を繋いでいてくれて、すごく幸せだった。今日は、ホワイトデーの心配なんてしてたけど、ホワイトデーなんてどうでもよく思えてきちゃった。だって、私はこんなにも日吉に愛されてるって感じられたから。ホワイトデーなんて無くてもいいぐらいだ。
・・・なんて考えちゃった私って、本当現金だ。
Next →
ホワイトデーは、メインの日吉くんでしたー!しかも、1週間前の出来事から(笑)。
もちろん、ホワイトデー当日の話も書きます。さてさて、日吉くんはホワイトデー、どうするつもりでしょうか?お楽しみに!(笑)
ちなみに、今回の話でいつも以上に優しかった理由も、後の話でわかります。というわけで、しばらくお付き合いいただけると、嬉しいです。
('08/03/07)